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絵のある生活レポート

絵のある生活レポートでは、ラッセン、鈴木英人、笹倉鉄平、ヤマガタ、レイナートなどの版画アートを紹介しています。

版画の技法について

1.リトグラフ

版画の古典的な手法で、18世紀末、楽譜を印刷するためにドイツで発明された技法として現在に至っています。

版には平面の石版(石灰石)、ジンク版(亜鉛)、アルミ版などを使用し、転写紙の上に、油性の強い墨、鉛筆、チョーク、クレヨンで作画して、その上に 滑石粉末と硝酸を加えたアラビアゴム液を塗り、この版に油性インキをのせると、水と油の反発作用によって、絵を描いた部分にだけインキが付着します。 この原版に紙をのせ、プレス機で圧力を加えることによって、絵が描かれた部分だけが刷られる仕組です。

手で自由に描いたそのままが版画となり、細かい表現も可能な点が大きな特徴で現代作家達もリトグラフを数多く手がけています。

 

2.シルクスクリーン

金属や木の枠に絹やナイロン、テトロンなどの幕(スクリーン)を張り、その幕の網目を様々な方法でふさぎ、ふさがれていない部分だけからインキを下に押し出して印刷する方法です。 網目をふさぐ方法には、色を付けたい部分だけを切り取った厚紙の上にスクリーンを重ねて刷る方法や、スクリーンに直接に感光乳剤を塗り、ボジフィルムを密着させて露光することによって画像を抜く方法などがあります。

この技法は画面が反転しません。色の境界線がはっきりしていて均質に仕上がります。セリグラフともいいます。

 

3.ミックスドメディア

複数の製版技法を組み合わせていく技法です。

ミックスドメディアは広範なジャンルに使われる言葉ですが、ラッセン・シメールデビッドミラー・等のアメリカ版画では、写真製版された下絵にシルクスクリーンをプラスして、原画の微妙なグラデーションや繊細な陰影、奥行きのある立体感などを表現しています。

従来のリトグラフやシルクスクリーンでは実現できなかった立体感・色彩を表現できます。

 

4.エッチング

防蝕剤で覆った銅版や亜鉛版の表面に耐酸性のニスを塗り、その上を鉄の針などで線を刻んで傷をつけます。酸で線の部分だけを腐蝕させ凹部を作り、そこにインキをつめて印刷します。腐蝕させる時間を調整することによって、線の強弱や太さの違いを変えることができます。

直接版を彫って画線部を残す技法よりも自由に線が描けることと、細かい描写ができることが特徴です。レンブラント以降版画の主流になっています。

 

5.ジークレー

最新のデジタルカメラとスキャナー技術を駆使して作成される版画です。ラッセン・シメール・アルフォーグ等のアメリカ版画を中心に広がりを見せている高画質デジタル印刷です。

リトグラフやシルクスリーンなどとは異なり、版は使用していません。ジクリー、ジークレーの語源ですが、gicleeとは、フランス語でインクの吹き付けを意味します。 これは、スクリーンを通さず、キャンバスや版画の紙にジークレー専用のインクジェットプリンターから大きさ15ミクロンのシアン、マジェンタ、黄色、黒色の4色の粒子が吹き付けられ制作されます。 だいたい一枚の大判のジークレー版画には数十億粒以上のインク粒子が吹き付けられます。 毎秒4百万以上、インクのミクロ粒子を、噴射して7万色以上の微細な発色を可能にしてます。 水性のインクを使用するために通常表面は乾燥した感じに仕上がり、見た感じはリトグラフに近い感じになりますすが、その上からシルクスクリーンで透明ニスをかける場合はシルクスクリーンの様な仕上がりになります。 ジクリーと呼ばれることもあります。

非常に繊細な線のタッチ、微妙な色彩の変化、色彩の揺れなども逃さず再現することができ、現在最も原画に近い版画制作法といわれています。

 

6.シバクローム

カナダのシバガイギ社が特許を取得していることから、シバクロームという呼び名がついています。 同様にイルフォード社(スイス)からの商品は、イルフォクロームと呼ばれます。

チバクロームはポジ・プリントに使われるポジ材料で、チバクローム・ぺ一パーの略です。手頃な枚数と専用現像処理剤が容易に入手できるため普及しました。 他のネガ・ぺ一パーに比べて高価ですが、非常に質の高い耐久性のあるプリントが得られることが特徴です。

通常の写真の現像方法は「発色現像法」とよび、科学変化により、元々色のない媒体の上に必要な部分だけ色を発色指させる技法です。シバクロームは「銀染料漂白法」と呼ばれる技法で、アゾ染料により色彩を形成する技法です。 「銀染料漂白法」とは、もともと媒体が持つ色を漂白により除去して必要な色だけを残す写真技法です。通常の「発色現像法」のプリントは化学変化した色が経年より、色あせするため美術品の色彩を保存する方法としては耐久性に問題がありました。 「銀染料漂白法」のシバクロームは元々ある色彩の中で不必要な色彩のみを除く方法のため、色彩自身の耐久性は強く、経年しても、その透明感や色が損なわれないため、耐久性を要求される版画技法として近年よく使われる技法となっています。 元になる「アゾ染料」は、衣料の染め付けに用いられるほどの耐久性を持ち、透明感や彩度に優れた染料です。チバクローム、イルフォクロームとも呼ばれます。

一般の版画と最も異なる点は、版画が刷られているものが紙やキャンバス布ではなく、フィルムという点です。写真の究極の応用と考えればわかりやすいでしょう。写真の場合は、色を定着させる際に、酸とアルカリの反応を利用する点から、酸化(変色)しやすいのですが、シバクロームの場合は、すべての工程において中性の状態で作業するため、酸化しにくいという特徴があります。

 

 

 

 

 
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